これは繊細さんエッセイである。(私は勝手に呼んでいる。)著者の文月悠光さんは詩人である。本書は「臆病な著者が様々なことに挑戦するエッセイ集」であり、web連載がもとになっている。タイトルが個人的に好きポイント。
本書について
著者:文月悠光
出版社:立東舎、新潮文庫
初版年:2018、2021
本書の構成としては、短い章の連続で気楽に読めるものとなっている。
本書をオススメするなら?と聞かれたら間違えなく「繊細さん」だ。というのも、繊細話がドシドシ出てくるので、同じような経験をしている人には、共感の嵐だろうな、と思ったからである。
詩人であること
現代では詩が軽視されているように思う。詩人の方には申し訳ないのだが、現代では経済的価値ばかりが求められる。文学、特に詩は「経済的価値のないもの」として扱われているように感じるのは私だけではないはずだ。詩や詩人の価値ってなんだろう。当の詩人は「詩人でいること」をどう思っているのだろう。著者は本書の中でこう語る。
〈現在の日本社会において詩人であること〉って?
言葉による暴力を許さないこと。この瞬間を切り取るためにペンを走らせ、声を上げること。醜い言葉を撃ちつづけること。窒息しそうなこの世界に、言葉で風穴を開けること。(p106)
成程、と納得してしまう。
SNSの登場により、言葉の重さが低下した現代。毎日誹謗中傷がされている現代。そんな時代だからこそ言葉で世界を変えていこうというもの。言葉の使い手として今後の詩作にも注目していきたいところである。
また自分も彼女の信念には共感し、今後の活動でも言葉を通して人を救えたらと思った。今は薄い言葉であるが、いずれ分厚くしてみせる。そういう意味では本書は、自分に影響を与えた一冊ということになる。
やはり本書は経済的価値ばかりをみている現代に読まれるべき本なのかなと思う。本書で経済だけでなく、精神的にも価値のあるものを受け入れる勇気を養っていきたい。
最後に個人的に気に入った言葉を紹介して終わりとする。
それぞれの現実を包み隠さず語り合ったとき、複雑で豊かな世界の在りようが見えてきた気がした、自分の織りかけた布を、誰かが引き継ぎ、新たな模様を織り上げていく–議論は言葉でできた美しい織物のようだった。(p149)